インタビュアー:まずは人生初のヨーロッパ訪問、何をお感じになりましたか?


多久:歴史の重みとパワーを感じました。街並に説得力がある感じ。これだけしっかりと「文化」というものを主張されると、日本がどれだけ特異な国かということを再実感できますね。

気候は日本とあまり変わらず、とても過ごしやすかったですよ。


この頃はSankyo-Kingmaシステム(4分の1〜8分の1微分音を簡単に出せるシステム搭載のフルート)を、よくパフォーマンスでお使いですが、システム開発者のエヴァ・キグマさんにお会いになって、いかがでしたか?

キグマさんはバイタリティ溢れる、もの凄くエネルギッシュな女性でした。大きなヘアバンドを巻いていらっしゃるのが、トレードマークのようですね。

彼女のブースにはバスフルート、コントラバスフルートがところ狭しと並べられていて、トレバー・ワイ氏など多くのプレイヤーが興味深げに試奏をしていたのが印象的です。

彼女自身はプレイヤーではないので僕の様な新しい領域に挑戦している音楽家に会えた事を非常に喜んでいらっしゃいました。勿論このように新しい試みをしている製作会社に接せられる事は僕にとっても大きな喜びです。

 

キグマさんの前で、多久さんが得意とされる特殊奏法のデモをされていたとき、その珍しさと面白さに人が集まっていましたね。

 

 

様々な特殊奏法を駆使した即興演奏は私の十八番でもあります。物珍しさからか、携帯電話で僕のムービーを撮られている方もいらっしゃいましたね(笑)。

2007年夏の東京コンベンションのとき、三響フルートのショーケースでキグマを使ったパフォーマンスをした動画がYoutubeにUPされているのですが、(左:再生ボタンクリックで動画が見れます)

キグマさんをはじめ、パユさん、ジーグラーさんから面白いことをやってるな、という感想をメールでいただきました。

実はこの時はまだ手探り状態だったのですが、今はこの楽器を通して新たな音楽の方向性が見えつつあります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あのショーケースは本当に楽しく聴かせていただきました!そのあとに作曲していただいたキグマを使った新曲 ( ご視聴いただけます)も、素晴らしい曲ですね。次回は是非、三響フルートのショーケースとしてステージをセッティングさせていただきますので、そこで思いっきり演奏してください。

フルートの限界を超えたパフォーマンスをお約束致します!(笑)



コンベンションにはヨーロッパ各地から多くのプレイヤーが集まりましたが、多久さんと同じく三響フルートを吹いていらっしゃるシルビア・カレドゥさんと何度か食事をしたり交流をされましたね。

 

コンベンションで彼女のソロリサイタルを初めて聞きましたが、小さな身体からは想像出来ないほどヴィヴィッドで、且つ艶やかな演奏をする方です。楽器と一体化して歌っている印象を受けました。

演奏会翌日、シルヴィアとローマにある寿司屋へランチに行きましたが彼女は日本食が大好きなようで、特になぜかガリばかり食べていました。

彼女があまりにガリに夢中なので「シルヴィア、それは口をスッキリさせる時に食べるもので、大概の日本人はそんなに食べないんだよ」と教えてあげると、「あら、日本人は食べないのね」とばかりに僕の皿のガリまで食べてしまいました。

少女の様な気分屋さんで、彼女の演奏の素直さはこういう性格から来ているんだなと感じました(笑)。非常に素敵な方で、また会えるのを楽しみにしています。

 

シルヴィアが日本に来たら、どこに案内してあげたいですか?

僕は神田と秋葉原の中間くらいの所に住んでいるので、その辺りの文化には少し詳しいのですが…(笑)

どこへでも一番のお気に入りの場所へ…と言われたら迷わず京都の龍安寺ですね。あの場所は庭の美しさで知られていますが、そこへ向かうまでの道中に聞こえてくる音が素晴らしいんです。

静寂の中をザクッ、ザクッと小石を踏みしめるながら歩いていくと、風に揺れて笹の擦れ合う音がさらさらと聞こえてきて、水のせせらぎが聞こえ、どこからか蝉の鳴き声がしてきて…

まるでテクノかミニマルミュージックの様にパートが重なってゆき、最後にはそれらの音が全部重なって、ハーモニーになって聞こえてくるんです。

 

サウンドスケープですね。お話を伺っているだけで音が聞こえてきそうです。

蝉の鳴き声の中に、微かに鈴虫の音も混じってくるんですよ。もう誰かがCDでも流してるんじゃないの?とさえ思ったりもします(笑)

そして混ぜに混ぜまくった音を聞かせたあげく枯山水の石庭に到着したらいつのまにか無音ですよ。庭師の方に感服です。

日本が世界に誇るサウンドスケープだと思います。そういった日本の音風景の楽しみを紹介してあげたいですね。


最後に、今回のイタリア訪問を通じて、最も印象に残ったことをお話いただけますか?

ローマ滞在の最終日の朝、空港へ向かう前に1時間ほど余裕があったので、バチカンのサンピエトロ大聖堂を訪れたんです。やはり世界最大のカソリック教会ですし、その圧倒的な存在感にまずは驚いたのですが、何よりも寺院の中で鳴り響いていた、心の中にまで浸透してくるようなオルガンの音色に大きな衝撃を受けました。

と、同時にやはり芸人根性というか私は何でもネタにしたがる節がありまして、

「オクトバスフルートからピッコロまで使って
多重録音+爆音スピーカーでパイプオルガンの曲やろうかな…」

とひらめいてしまい、神聖な場所にもかかわらず、一人でニヤニヤしていました(笑)。

この他にもイタリア滞在中には様々な発見とひらめきがありましたね。そのほとんどは日本人ならでは、という発想です。サンキョウ・キングマフルートというさらに沢山の音が使用可能になった楽器のお陰で、そのイメージを形に出来そうです。

 

色々とお話いただき、ありがとうございました。

 

2007年12月10日 ローマにて

インタビュアー:三響フルート製作所 海外営業部 本多由佳

 

独自の奏法と奇抜なアイディアを武器に、フルート演奏における新たな可能性を切り開く。

演奏活動に於いて特定のジャンルはない。即興演奏や自作自演によるパフォーマンスを活動の主とし、今春には札幌にて自作のフルート協奏曲が演奏された。

超絶技巧トリオ『マグナム・トリオ』、移動音楽劇団『にじいろクインテット』リーダー。現代音楽アンサンブル『BOIS』、現代フルートカルテット『ノズルス』メンバー。

東京藝術大学器楽科卒業。

木ノ脇道元、佐久間由美子、竹澤栄祐に師事。三響フルート工房レッスンセンター講師。