インタビュアー:
ウィーン・フィルに入団される前は、ハノーファー放送交響楽団で首席を務めてらしたんですよね?所属するオーケストラが変わることで、ご自身のプレイスタイルに影響はありますか?
ワルター・アウアー:
そうですね、演奏スタイルはかなり変わったと言えると思います。5年前より上手くなった、という確信もありますし(笑)
それに、所属するオーケストラから受けるモチベーションやエネルギーが全く違うんですよ。3年前、ウィーン・フィルに入団したばかりのときは、本当に大変でした。オペラのほうでも新しい演目をたくさん覚えなくてはいけないし、ついていくのに必死で、今のようにフリーな気持ちで、自分の表現を出来てはいませんでしたね。
それを乗り越えたことで、ヴィジョンとして新しいものを得ました。偉大な指揮者、同僚、環境、全てに影響されて、自分自身が成長できたと思います。
(左:インタビューに答えるアウアー氏。楽友協会の隣、インペリアル・ホテルのカフェにて。多趣味なアウアー氏は、建築・絵画への造詣も深い。ワインを楽しむ時間も大切にし、料理も得意。)
--- 特別な印象として残っている演奏会があったら教えてください。
演奏会って、録音とは違って、そのときの色々な条件に左右されるじゃないですか。同じプログラムで同じ指揮者でも、いつも同じクオリティで演奏出来るわけではない。だから、神懸かったかのごとき演奏ができたときは、記憶に深く刻まれます。
入団して初めて参加したブラームスの交響曲4番…、これはすごく覚えていますね。本当にエキサイティングでした。他に、ラトル指揮のパルジファル、アーノンクールのブルックナーの5番、ヤンソンスとのNYでのショスタコーヴィッチ5番、ザルツブルグでのフィガロ……、思い出に残っている演奏会はたくさんあります。そのうち、レコーディングされてCDになっているものもたくさんありますね。きみはCDをよく聴く?
--- ええ、聴きます。ただ好みがあって、ライブレコーディングされたCDは好きですが、スタジオ録音のものは、さほど好んで聴きません。編集で完璧に修正できてしまうのが、面白くない、というか…。
そう!そうなんだよね。録音されたものには『嘘』がたくさん入っていて、それは演奏行為というよりも、別の『作品』として認識したほうが正解かもしれません。編集を嫌う演奏家がオーケストラの同僚にもいてね、ディーター・フルーリー(ウィーン・フィル・フルーティスト)なんだけど、彼がこの前リリースしたCDは、全部ノーカットで、間違えてるところもそのまま使っていて、とてもエキサイティングなんですよ。
--- ウィーン・フィルは世界で1番忙しいオーケストラではないかと思いますが、そのハードスケジュールの中でのストレス解消法などありますか?
マラソンを週に4,5回しています。ウィーン・マラソン大会にも参加したんです。NYやベルリン、東京マラソンにも参加してみたいですね。
自然の中で身体を動かすことが好きなので、マラソンの他にも、マウンテンバイクに乗って外を走ったり、テニスをしたり。テニスだと、ハードコートでやるときには足の負担が大きいから、特に冬場は気を使います。アキレス腱が強くないんですよ。
--- 体力や筋力がつくことで、演奏にプラスになることはありますか?
そうだね、体力や筋肉よりも、身体のメカニズムやシステムを把握するのが大切だと思う。把握するために、自分の身体をよく感じ取ることが不可欠です。息の流れや、身体のどの部位がどういう動きをして、どんな音に繋がるのか、そういったことを知る必要があると考えています。
--- 世界各地でマスタークラスを開いていらっしゃいますが、
どういったスタイルで教えていらっしゃるんですか?
まずは見本になるように、たくさん吹いてみせるんです。それが最短の方法だと考えています。しかしそれは1つの見本であって、生徒が僕の方法を取り入れなくても構わないんです。彼らが何を学びたいのか、その要求を最優先にして、彼ら一人一人の状況に対応してあげられるよう、色んなバリエーションを用意しています。
教える、という行為は、簡単なことではありません。生徒は真剣な気持ちでその場に臨んでいるし、その彼らの時間を僕が使うわけだから、何かを学び取って帰れるように、きちんと考えて取り組まなくてはいけません。
僕は嘘がつけないので、生徒には素直になんでも話すようにしています。時には生徒が聞きたくないようなことも言っていると思います。なるべく厳しすぎないよう、でも意味が直接伝わるように話します。
僕が1つ1つのマスタークラスで重視しているのは、技術的な面よりは、音楽的な面に於いて、モチベーターになってあげることだと思います。フレージングとか、何を表現していけるのか、とか。生徒の可能性が広がっていくように。
--- 今お使いになっているのは、三響フルートの24Kの楽器ですが、今までお使いになっていた銀のフルートから24Kへ替えるのは非常に大きな違いがあると思います。楽器を替えた最大の理由は何ですか?
僕は、より大きな可能性を探していたんです。フルートの業界は常に変化があって、新しい技術や素材が次々に出ていますよね。僕は業界では今何が起こっているのかを知りたくて、たくさんの楽器を試しました。それでも、実は僕は三響の24Kに出会う前は、金の楽器を吹く事に抵抗感があったんです。あまり良い巡り会いがなかったせいかもしれません。
そんなある日、きみに薦められて24Kを吹いてみたんです。衝撃的な出会いでした。この楽器に出会った最初の夜に、オペラ座でパルジファルを吹いて、その次に薔薇の騎士を吹いたんです。とても面白かった。今までの楽器とは違うから、少しだけ大変だったけど、それがまたエキサイティングだった。
--- オーケストラの団員たちの反応はいかがでしたか?
僕が24Kを吹いたら皆がすぐに気付いたんだ。「すごくいいよ、それ!」って。「きみが金の楽器を吹いてるなんて不思議だけど、そんなにいい音がするんだね!」ってさ。仲間にそう言われるのが、僕にとって最も大切なことなんですよ。
--- 私達メーカーにとっても、嬉しい評価です。
楽器は、可能性を持っているかどうかが一番大切だと思います。1つの色ではなく、1つの音ではなく、100以上の音を持つことが、そして可能性を広げてくれる楽器を持つことが、演奏者にとっては大事なことなのです。
一般的に、金の楽器は美しい音色を持っています。
それがただ美しいだけの場合が多いように思うのです。
--- 三響24Kは違ったのでしょうか?
三響の24Kフルートは、ただ美しいだけでなく、様々なカラーが僕の思いのままに出せるのです。乱暴な音、汚い音を出すことも、オーケストラでは必要だし、それ以上に即興的なひらめきを持ち、イマジネーション、インスピレーションを持つことが大切です。
さっきも言いましたが、現代のフルート製造技術はとても進んでいて、どんな楽器を持って来ても、オーケストラで吹けると思います。ただ、本当に一部の楽器だけが、『特別な楽器』なんです。多くのフルートで形成するピラミッドがあるとしたら、そのトップに位置する本物の特別なフルートは、数えるほどしかないと思います。
この楽器に巡り会えて、本当に良かった。
今ではこの楽器は、僕の身体の一部です。